大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)1252号 判決
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〔事実〕一 原告の実用新案権
原告は、名称を「魚釣用リール」とする考案(以下「本件実用新案」という。)について、つぎの実用新案権を有している。
登録番号 第八三〇五四〇号
特許出願 昭和三八年一〇月二六日
実用新案登録願に出願変更
昭和三九年一一月二六日
出願公告 昭和四二年一月一三日
(昭四二―五五一)
設定登録 同年七月六日
〔判決理由〕一 争いのない事実
原告が、本件実用新案につき原告主張の実用新案権を有すること、右実用新案権の実用新案登録請求の範囲の記載が、「スプール2を先端に固着したリールシャフト1をスプールカップ4の中央に固定したピニオン3の中央孔に摺動自在に嵌押し、前記ピニオン3をリールシャフト1を摺動せしめるクランク歯車11に噛合せしめると共に、スプールカップ4にトルクモーター5を直接接触係合してこれを回転する如くして成る魚釣用リール」
というものであること、および、被告が、係合車11が小型直流マグネットモーター10の主軸先端に附設されているとの点を除き原告主張のとおりの被告製品を生産し、譲渡し、貸し渡し、譲渡もしくは貸渡のために展示していること、以上の事実は、本件当事者間に争いがない。
二 本件実用新案における「トルクモーター」について。
前記本件実用新案登録請求の範囲の記載に、本件実用新案公報の記載とくにその考案の詳細な説明の欄における(1)「従来の魚釣用電動リールは、……釣糸を巻き取るスプールの延長軸に数個の歯車を組合せて減速しているため効率が低下し、強力なトルクを得ることが困難で、機構も複雑になるため故障が多く急激な負荷の変化が起ると効率を急激に低下させるため、魚が釣糸にかかり強力なトルクを必要とする時、逆にトルクが弱くなり起動時においても強力なトルクが出ない。」、(2)「本考案においては変速可能なトルクモーターで直接スプールカップを回転させたので僅かな力でこれを回転させ得るのである。」、(3)「本考案は上記の如く構成されるものにして、トルクモーターは電機子巻線と界磁巻線が直列に結ばれているため電機子巻線内に流れる電流と界磁巻線内に流れる電流が比しく、従つてトルクと電圧の二乗したものが近似的に比例し回転数は電圧と(をの誤記と認める。)トルクの二乗根で割つた商に近似的に比例するものであり、だから負荷の変化によつて回転速度が変化し、起動時には極めて大きなトルクが発生し、負荷のトルクが大きくなれば自動的に回転速度が低下する機能を有するものである。」、(4)「釣糸は魚獲を感じることによつて巻取られるがその駆動原力たるトルクモーター5は魚の抵抗力に応じて自動的に釣糸の巻取速度を調整するので魚に強制的に抵抗して釣糸を無暗に切断することが皆無となる。」、(5)「又このトルクモーター……は魚の引込が強力で停止又は逆転するようなことがあつてもこのモーターのもつ特性により巻線が焼けることがなく、常に負荷に応じた抵抗を示し釣糸を緊張せしめるので、魚を逃がすことがない特徴を発揮するものである。」、(6)「上記の如く本案魚釣用リールは伝達力に無駄がなく、又トルクモーター5は魚の引具合に応じて巻取り速度を調整し、例えば小さい魚は高速で、大きい魚は鈍速でそれぞれ巻取るので釣糸に無理が生ぜず又その魚獲に無駄がない。その上該モーターは逆転、停止を行なつても決して焼けるものでない」との各記載、<書証>により、スプールカップを回転させスプールを前後に摺動させて釣糸をスプールに平均して巻き取らせるようにした手動式魚釣用リールおよび通常のモーターによりスプールを回転させて釣糸を巻き取らせるようにした魚釣用電動リールが本件実用新案の登録出願前から公知であつたと認められること、<書証>によれば、「トルクモーター」とは、通常の技術上の用語としては、停止してトルクを発生したままでも焼損しないように設計された電動機を指称するものであつて、同期電動機を除く交流、直流の各電動機がトルクモーターとして使用できるものであると認められること、ならびに、本件口頭弁論の全趣旨をあわせ考えれば、本件実用新案は、従前の魚釣用電動リールが、通常の電動機を用いていたため、魚が釣糸にかかつたとき(起動時)にただちに強力なトルクが出せないことがあり、魚の抵抗力に応じて巻取速度を自動的に調整することも不可能で、強力なモーターを用いれば釣糸を切断するおそれもあり、また、魚の引張力が強大で停止ないしは逆転するような場合には、モーターが焼損するという欠陥があつたのを、前記実用新案登録請求の範囲にみられるとおりの動力伝達機構をとるとともに、モーター自体も、前記考案の詳細な説明に例示された直流直巻電動機のように、始動時に強力なトルクを発生し、負荷の変化によつて回転速度が変化し、負荷が大きくなれば自動的に回転速度が低下する機能を持つモーターであつて、しかも、負荷のかかつたまま停止ないしは逆転しても焼損することのないように設計されたモーターを採用し、前記動力伝達機構とあいまつて、従前の魚釣用電動リールの持つ前記欠陥を克服したものであり、換言すれば、本件実用新案における「トルクモーター」とは、右のようなモーターを意味するものであることが認められる。してみれば、右の意味における「トルクモーター」を有することは、本件実用新案の必須の要件であるといわなければならない。
三 被告製品のモーターについて。
前記争いのない事実によれば、被告製品に用いられているモーターは小型マグネットモーターであるところ、この小型マグネットモーターも、始動時に強いトルクを発生し、負荷の変化によつて回転速度が変化し、負荷が大きくなれば自動的に回転速度が低下する機能を持つものであることが認められる(この点については当事者間でも争いがない。)が、一方、本件口頭弁論の全趣旨および<書証、検証物>によれば、被告製品に用いられている小型マグネットモーターは、停止したまま通電すれば、五秒以内に発煙しはじめ、二〇秒ないし二五秒の間に巻線のエナメルが溶解焼損変質、変色し、二五秒後には巻線は短絡状態となつて過大電力が流れることが認められる。そうすると、右小型マグネットモーターは、負荷のかかつたまま停止しても焼損することがないように設計されているものとはいえず、したがつて、右小型マグネットモーターを、従来の魚釣用電動リールの欠陥を克服して決して焼損することがないようにした本件実用新案における「トルクモーター」にあたるとすることは、とうていできないものというべきであり、また、前判示に照して、これを本件実用新案の「トルクモーター」の均等物とみることもできない。
原告は、魚釣用リールにあつては、魚の引く力が強くモーターが停止した場合には、ただちに釣人がスイッチを切るから、被告製品のモーターの程度のものでも十分であり、右モーターは本件実用新案の「トルクモーター」にあたる旨主張するが、本件実用新案において「トルクモーター」を採用した意義が前判示のとおりである以上、原告の右主張は採用することはできない。(魚の引く力が強くモーターが停止した場合、ただちにスイッチを切つても魚獲に影響がないことを認めるに足る資料はなく、かえつて、そのようなときにこそ、モーターを焼損することなくトルクを維持することによつて、魚の一挙一動に対応し成果をあげうるものであることは、容易に推認される。)
四 本件実用新案における「直接接触係合」について。
前記本件実用新案登録請求の範囲の記載に、前記の記載とくに前記二の(1)および(2)の記載、「従来のリールの力の伝達は傘歯車から回転が始まりリールシャフトの摺動及びスプールカップの回転に移つていたが、本案は釣糸を引取るスプールカップに直接回転力を与え力を他の機構に分散していくものであるから力の消失がなく効果である。」との記載ならびに<書証>により認められる既製のモーターにより減速装置を経ない電動式魚釣リールの製作が可能である事実をあわせ考え、さらに、右(7)の記載における傘歯車から力を加えるのに比してスプールカップに力を加えた場合の方が力の消失がなく効果的であるとの事実が、いずれの側から力が加えられるにしても負荷の総量に変りがないと推認される関係上、必ずしもただちに首肯できないことを考慮すると、本件実用新案は、魚の引張力に速やかに対応して常に適度のトルクで釣糸を巻き取るために、前記二に判示した「トルクモーター」の採用とともに、従来魚釣用電動リールが採用していた歯車等による減速機構その他の伝達機構を極力排除して、モーターから何らの減速装置も経ずに直接スプールカップに力を伝達することによつて、従来品の有していた魚が釣糸にかかつたときに必要な強力なトルクを得られず負荷の急激な変化に応ぜられないという欠陥を解消したものと認められ、したがつて、本件実用新案における「直接接触係合」とは、右のような力の伝達手段を意味するものと考えられる。
原告は、魚釣用電動リールにおいてモーターに減速装置を施すことは、機械設計上周知の慣用手段であるとして主張するところがあるが、本件実用新案については、前判示のように減速装置をも含めて一切の間接的伝達装置を排除した点にもその新規性ありとして実用新案権の設定登録を受けたものと認められる以上、原告の右主張は、採用のかぎりでない。
五 被告製品における力の伝達機構について。
被告製品における係合車11'がスプールカップ5'に、前記の意味で「直接接触係合」しているかどうかの点は暫く措き、本件口頭弁論の全趣旨によれば、右係合車11'は、小型マグネットモーターの主軸に附設されているのではなく、右モーターから二段の遊星歯車式減速装置を経てモーターの回転力を伝達されている出力軸に固定されているものと認められる。してみると、係合車11'とスプールカップ5'との直接接触係合の有無を論ずるまでもなく、被告製品の小型マグネットモーターはスプールカップに、前記の意味での直接接触係合はしていないものといわざるをえない。
六 侵害の有無について。
したがつて、被告製品は、本件実用新案の必須の要件であるトルクモーターを具備せず、モーターとスプールカップとの直接接触係合もしていないものというべきであるから、その生産、譲渡等の行為は原告の本件実用新案権の侵害とはならないのであつて、右侵害の事実を前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当といわなければならない。
七 むすび
以上のとおりであるから、原告の本訴請求はこれを棄却する。
(大江健次郎 楠賢二 庵前重和)